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ヴェニスの空の下(1)

ベニスといえば水の都。しかし、都に上るにしては汚い格好でした。
しかし、この格好が盗難防止には丁度良かった。イタリアは置き引きの多いところです。こんなことを言うとフランス、スペイン、イタリアの方から叱られそうですが、実体験と友人たちからの情報を併せると、ヨーロッパでは南に行くほど泥チャンが多くなります。
フランスは別稿に書いたように、ジプシーの子供の置き引きをトップに、アイスクリームを服に付け、親切に拭く振りをして財布を抜く輩なども居ます。イタリアやスペインは夜行の列車内での盗難が多いようです。いえ、昼間の観光スポットも彼等の狙い目です。しかし、汚い格好でリュックを背負った貧乏学生風の日本人を狙うヤツはいません。
早朝の5時ごろ国鉄のベニス駅で降りると、サンマルコ広場を臨む駅構内の太い柱の根元には、頭を柱側にして放射状に十人近い旅行者が横になって仮眠を取っています。丁度、花が開いたようです。少々汚れた花ではありますが。頭を柱の根っ子に向けているのは勿論、通る人々に間違って頭を蹴られないためです。
構内の柱毎にこのような花が咲き、滑稽なような、旅行者の大胆さにあきれるような・・・・。早速私も仲間入りしましたが、それほど寝心地はよくありません。
ま、まだ残暑の頃の朝ですから風邪を引く心配はありませんが、大理石の床は固く冷たく、そこに響く足音も加われば、勿論安眠できる環境ではありません。それでも横になったひとびとは起き上がる気配はありません。
夜行列車のコンパートメントと駅の床とどちらが寝易いとも言えません。結局、町中の寺院やゴンドラなどが活動を始める時間ま、あるいは次の乗り継ぎ列車の発車時刻で寝て待つつもりなのです。
私も眠れぬままにその辺りを散歩して、ベニスの風景を堪能すると次はオーストリアに向かって列車に乗り込みました。
コンパートメントはガラ空きなので、かねて用意の洗濯ロープを張り渡し、ベニスの駅の水道で洗っておいた洗濯物を干しました。窓を開けると爽やかな風が吹き込み、薄い夏物のシャツとタオルなので、二駅ほどで乾いてしまいました。三つ目の駅で人が乗り込んで来たときには、もう洗濯物はわたしのリュックの中に収まっていました。

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