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岡目八目

「岡目八目 」。少し碁を覚えるまで、この諺の意味を随分長い間誤解していました。
岡目はオカメで、八目はタレメぐ らいに思っていました。
「故郷」の歌詞の「うさぎ追いし」を「うさぎ美味し」と勘違いする子供と同じです。
 この諺を実感したのは、わが家のワンパク坊主がスイミングスクールに通い始めたころのことでした。
最初水に慣れることから始めて、ばた足、etc.と他の子供並に泳ぎを覚えて行きましたが、平泳ぎでス トップしてしまいました。浮袋につかまって足の練習をするとうまく行くのですが、コースを自由に泳ぐ と、左足が曲がったままで真っすぐに伸びないのです。
 伸びないというより煽り(あおり)足になっているのです。 右足はきれいに平泳ぎになっていますが、左足は不格好に曲がっているのです。
 私はめったに同伴しなかったのですが、ある日プールの二階の保護者席からコースを見下ろしていると 息子が泳いでいます。まるで膝を痛めたかえるのように、よたよたと、しかし本人は気持良さそうに水 を掻いています。
 プールのインストラクターには何度か注意され、、指導も受けたらしいのですが改善の 兆候はありません。親としては情けなくなります。もっと小さな子がきれいなフォームで泳いでいるのに、 うちの子ときたら五年生にもなって、ちゃんとしたフォームができないのですから。
 特に八人が一斉に向こうに向かって泳いでいるときは、他の七人のフォームが美しいだけに、我が息子 のフォームの醜さは際だっていました。他の子達が一ヵ月で通り過ぎるレベルを二ヵ月経っても左足だけ はクリアできないでいたのです。
 私には彼を指導する力はありません。正式に水泳を習ったこともありません。 小学生、中学生のころは、戦後十数年しか経っていなくて、日本中貧しく、学校にプールなどありませんから、夏休み に泳ぐのは近くのため池か小川でした。
 小川は稲田のための殺虫剤を散布することがあるので、主に池で した。ほぼ楕円形の池で、長い直径が約百メートル、短い方が五十メートルぐらいでした。
 この池では梅 雨のころに年に一回釣大会がひらかれ、村の太公望たちが腕を競い、ショバ代が池の修繕費に当てられて いました。
 また、二、三年に一度、取り入れが終わってから池の水をすべて抜いて、魚の総取り大会も行 なわれ、村の人々総出のお祭りとなったものでした。
 さて、夏休みに入った初日には皆でいかだ作りです。仲間の家の竹やぶから孟宗を切ってきて、水難時 の救助用のいかだを用意しなければ、学校から水泳の許可が降りなかったのです。 ですから皆一生懸命です。半日でいかだを作ると「試運転」と称して、泳ぎ初めです。 池の遠浅部分の菱(ひし)を始めとする水草を抜き取り、泳ぎの邪魔になるものを掃除し、歓声をあげて泳ぎ始 めます。  まともに水泳を習った子なんてひとりもいません。だいいちスイミングスクールが存在しないの ですから。 みんな思いおもいの格好で泳いでいます。平泳ぎっぽいのもいればクロールもいます。ほんのすこし中 央によるともう背が届かないので、苦手連中は岸のちかくでばたばた手足の練習、、得意なのは中央部に行って、四メートルほ ど底の泥を取ってくる競争をしています。
 私はあまり泳げなかったので、この池の縦渡りが出来たのは中 学校の一年生になってからでした。
 横泳ぎと背泳ぎを交互に繰り返して、やっと渡りきりました。 一度成功すると自信がついて、それからは菱の実を集めたり、ジュンサイの間のカイツブリの巣を探し たり、人並みに水には親しみましたが、正統派の水泳のフォームは全く知りません。
 丁度子供たちの学校が夏休みに入ったので、ある日家族で近くの海浜プールに出かけました。 なんとかしてこの足の癖を直してやろうと特訓を始めましたが、一向に直る気配はありません。
 浮き輪 につかまらせてゆっくりと足だけ動かすとうまく行くのですが、手で掻いて泳ぎ始めると全く型になって いません。むきになって注意すればするほど、本人は焦り、足を早く動かさなければと思うので余計ひど い癖になってゆきます。
 そこでゆっくりとスローモーションでやらせると以外にきれいに半円を描いています。 どこまでうまくて、どこでつまずくかをじっと見ていると、足を縮めきって伸ばしに入る段階で一気に 形が崩れ、左足はあおりに、右足は水を蹴りにいっています。
 そこで縮めきった段階で一呼吸置いてから 蹴りの動作に入るようにしました。
 正解でした。
 両足が左右対称な半円を描いてくれました。 この「ひと呼吸」の時間を次第に短くして、ちょっとの「ため」程度にしても足のねじれがなくなり、矯正 は完了しました。
 二ヵ月余りプロのインストラクターが直そうと試みてもだめだったものが、素人の数時 間の訓練で直せたのでした。(かなり自慢していますナ!)
 自分ができると、他人がなぜできないのか理解できないときがありますが、その例かもしれません。
 陸(おか)から見ていた素人が、八目分ほど原因を早くつかんだということでしょう。 、パソコンメーカーの専門家が作ったマニュアルより、素人の失敗例を含めた説明のほうがよく理解で きるというのもよくある話です。 まあ、うちの場合は単純に親バカの例かも知れません。
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