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夏には、鮎を食す

 魚はなんでも食べますが、本当はアユが一番好きです。
でもアユを食べられたのはだいぶ先の話です。
アユは「鮎」とか「年魚」と書きますが「香魚」とも書きます。
ものの本によれば(日本人ならみんなが知っていることですが)、初夏の清流で苔を食べて育つので、その苔の芳しい香りがするからだという。
この苔の生えた岩を自分の縄張りに持つため、その中に侵入してくる他の鮎に体当たりして撃退する習性を利用したのが「鮎の友釣り」です。
「年魚」と書くのはもちろん一年魚、つまり一年で成魚となり生涯を終える魚だからです。
秋になると下流で産卵をする鮎が、川をくだって来ます。この「落ち鮎」を竹や板を組合わせた「梁(やな)」で取って食べるのが日本の伝統的なアウトドア料理の「梁料理」です。
考えてみると可哀想な鮎ではあります。産卵直前の一番使命感に燃えているときに食べられてしまうのですから。
しかし、美食家(グルメ)とは言いませんが、大食漢(グルマン)を標榜する私としては、この鮎を見逃がすわけには参りません。
一般に魚の食べ方としては、鮮度の高いものを単純に食べるほど美味なものでから、刺し身が一番(魚の種類によりますが)、二番が塩焼き、煮魚、その他と続きますが、鮎はやっぱり塩焼きに限ると思っています。
それに私は料理人ではありませんので難しい包丁は使えません。単純なほど有り難いのです。
軽く塩を振り、ついでにひれと頭を塩で濃い目に化粧してやります。
皿に盛った時下になるほうを先に六分焼き、裏返して表になるほうを四分の割合で焼きます。(これは料理の本に書いてありました。)
蓼酢で食べる。茎生姜でもあればもっと良い。
背びれを外し漫画で泥棒猫が魚をくわえるように、背中を一口ぱくりと食べる。確かに香魚だ。
お腹側から一口。苔の香りがほんのりと香ってくる。落語の「目黒の秋刀魚」じゃないけれど、上品に食べるより、大胆に食べるほうがそのものの持ち味を楽しめる気がします。
骨は軽く焼き直せば、ビールに格好のつまみになります。この食べ方で良いかどうかは別にして、少なくとも鮎は残さず食べるものと教えてくれたのは友人の父上でした。
その方も、まさか私が秋刀魚まで口と尾ひれを残して、後は全て平らげていたとは想像もされなかったでしょう。
今、家族でアユを食べると、一番下手なのは息子。彼は「殿様食い」です。片側を三回ほど箸を付けると中骨を外してまた三回、で終わりです。
つぎはかみさんで、ごく普通に、魚らしく食べています。
上手なのは娘で、中骨を食べない以外は、殆ど私並にきれいにたべています。こうして、個性的な食べ方をしたアユを三人分集めて、焼き直し、あらためて食べ直すのが私の役目なのです。
結局、頭4個と中骨四本を存分に味わうのが我が家の父親の特権(特技?)となっております。


 この渓谷には鮎より岩魚が居そうでした。 山梨県昇仙峡


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